1.構造計算偽造事件
 建築物の構造計算を偽造する事件が発生し、社会に大きな衝撃を与えている。これは情報不透明、情報隠蔽の建築業の悪い体質が露呈したものである。ここで国民の建設業に対する不信は爆発した。この信頼を取り戻すのは容易なことでない。思い切った体質転換をし、透明な情報を公開し、周囲もその情報に関心を持つ体制にしなければならない。
 今回の事件は、一級建築士という、社会から信頼されている職業の一人の人間の倫理感の欠如が、大きな社会問題を引き起こしたわけであるが、これは一部の不心得者だけの問題として、片付けられない問題である。すなわち、この事件は、建築業界が抱えている基本的な体質に根ざして居るとも言える。情報を出来るだけ曖昧にし、隠蔽する、言わば情報不透明の体質の問題点が、一気に暴露したものとも言える。
 この信頼を回復するため、建築業界は、情報不透明の産業から、透明な情報を開示する情報透明産業に、思い切って脱皮しなければならない。又、建築物の発注者、使用者も、情報透明を開示する公正をめざす集団に高い評価を与え、情報を隠蔽し不透明にするものに厳しい評価を与えるようにしなけれればならない。よい産業は、社会全体の力で作り上げて行かねばならないものである。

図1 情報透明産業への脱皮
2.品質確保の体制
 建築物の品質の確保については、設計も施工も実施者が責任を持つこと。この情報が明確に残され保存される体制にして、第三者がチェック確認すること。実施者の誠実な仕事と自主管理、管理者の厳格な管理が必要である。

図2 品質確保の体制
 また、この情報は後の保証のため、維持・保全のために、確実に保存されねばならない。今回の事件は、その第三者評価機関が不正を見抜けなかったことに、大きな衝撃を受けたのであるが、このような確認が、充分行なわれていない施工の部分等には、一層の不安が残るのである。
 ここで、住宅の品質確保の促進等に関する法律(略して「品格法」という)も、又一段と注目を浴びる事となるだろう。建築物の様に、人が作るものに関しては、作る人の倫理感、責任感は、何よりも重要であるが、それのみに依存して、いる仕組みは、いかにも脆弱である。その設計段階、施工段階のデ−タを残し、これを保存して、これで品質をたんぽする体制を、是非とも、作り上げんめばならない。今回の事件は、設計に関する不祥事であったが、工事過程の管理では、充分に記録が保存されておらず、さらに、不安が募るのである。
 ここで建築市場の透明情報を相互に公開し合う活動は、大いに評価される。建築市場のシステムでは、建築工事を行う作業者とCAD調達センタ−の管理者により、各工程の点検・検査が行われる。さらに、建築市場の監理建築士により、286肯定のチェックと540枚の写真がとられ、その記録が保存されている。また品確法の第三者評価機関により、設計審査を行い、工事中は4回の建築審査をうけている。建築市場では、平素の作業と管理が徹底しているため、品確法のための特別の準備は必要としない。その平素の管理が重要である。
3.情報透明産業形成への世論つくりの必要性
 今回の事件は、充分管理されていると思われていた設計段階の審査に綻びが出たため、そのショックも大きかったわけであるが、ここでは、設計の確認審査の体制を強化するだけに止まらず、この機会に、この設計図書に従って施工する段階での確認・検査の励行、記録の保存を強化すべきであり、社会も、これを真面目に励行する集団に高い評価を与え、これらの優良な集団が、適者として繁栄していく社会環境を作り上げていく、世論を形成していかなければならない。

図3 透明情報開示集団が繁栄する社会
 今回の事件は、不幸な事件であるが、建築産業が不透明性から脱却し、透明産業へ再出発する貴重なチャンスであるともいえるのである。又今、ここで建築物の構造強度というものに、強い関心がもたれている。木造戸建て住宅の耐震性をどのように確保するかは、きわめて重要な課題である。本日、ここに「耐震セミナ−」が開催されたのは、まことに、時宜を得たことと言わねばなるまい。この貴重なセミナ-に強い期待を表明しておきたい。
早稲田大学大学院アジア太平洋研究科
椎野潤より抜粋